死ぬまでにしたい10のこと

 

「死ぬまでにしたい10のこと」という映画を観た。

 

23歳にして二人の娘を持ち、失業中の夫とともに母親の庭においたトレーラーハウスで暮らしている。父親は何をしたかしらないが刑務所に入っている。最初の子は17歳のときに生んだから、ごく一般的な青春時代をしらないまま母親になってしまった。

 

 

 

そんな彼女がある日余命2ヶ月を宣告される。がんはすでに他の臓器に転移していて、その年齢の若さもあって進行速度が早いのだ。絶望と放心の末に、主人公のアンは「死ぬまでにしたい10のこと」をメモに書きつける。これが邦題の元になっているが、劇中ではその10個を順番に遂行していくことは主眼とされていない。ちなみに原題は”My Life Without Me” である。

 

 

 

意味深な原題に対して、邦題は少々キャッチーすぎると感じた。実際映画で10個もやったのかどうかも定かではない。死ぬまでにやりたいことをリストアップしたが、毎日毎日家庭のためにひたすら地道に働いてきた彼女から奇抜なアイデアなど出てくることはない。せいぜい他の男を知りたいと不倫をしてみる程度である。

 

 

 

アンはひたすらテープにメッセージを録音する。そのほとんどが子どもたちに向けてであり、何年も先に渡すことを想定して3年後、5年後、10年後というように言葉を紡いでいく。夫については一言あるだけで、女性が母親になったときの夫への扱いの小ささは全国共通であると感じないではない。録音テープは不倫相手にも作られており、その分量に差がないと夫が知ったらしばらく立ち上がれないに違いない。

 

 

 

結局アンは誰にも病気のことを告げないままにその残された短い人生を閉じる。そこにアンの強さ、ひいては女性の強さを感じずにはいられない。自分のおかれた不幸な境遇を哀れんでもらおうとか、同情を誘おうとかなんて考えない。もしそれを身勝手だとか、残された家族の気持ちをないがしろにしたとか思ったとしたら、それはこの映画を誤解していることになる。

 

 

 

確かに映画のプロットとして余命2ヶ月というショッキングな設定を与えたが、それは本質ではない。これは、「死ぬまでにしたい大切なこと」であり、すべての人に当てはまるテーマを持った映画なのである。あなたもぼくもこの先何年生きるかわからないが、いずれ死ぬのである。それまでにするべきことはなにかをみんなで考えてみようという映画なのである。あのスティーブ・ジョブズは毎朝起きると鏡に向かって「今日で人生が終わりだとしたらどう生きるか」を自問していたというのは有名な話だろう。ぼくは常々そう生きたいと思っているのであるが、煩悩に打ち勝つことはまったく容易ではない。

 

 

 

こんな素敵な映画を観たのだからまた一度改めて一日一日を大切に生きることを考えてみようかと思う。