2023年10月23日

ダンススタジオ Studio D2 主宰 カワイヒロコさん

振付・演出家

 

ダンススタジオ・演劇スタジオ・レンタルスタジオ

〒113-0023

東京都文京区白山1-18-7 石川ビルB1

03-3812-1174

 

公式サイト

https://studio-d2.net/


ジャズダンスと聞いて、ダンスをやっていないひとはどれだけ正確にジャズダンスとは何かを答えられるだろうか。
ジャズで踊るダンス?ことの始まりはそうだった。だからそう呼ばれているが、現代ではその範疇をはるかに超えている。POPSに合わせて踊ったり、ミュージカルで踊ったり、ミュージシャンのバックで踊ったり、テーマパークで踊ったり、あれもこれもジャズダンスというわけだ。では昨今人気があるストリートダンスはジャズダンスなのかといえば、それは違う。ジャズダンスはスタイルを変えながらも一貫したルールがあって、それはバレエの要素をもったダンスであるということだ。

ジャズダンスの起源は1920年代のアメリカ・ニューオーリンズと言われている。ジャズ(音楽)の中心地だったニューオーリンズで、その曲に合わせてアフリカンアメリカンたちが踊ったのが始まりだ。奴隷として強制的に連れてこられたアメリカの地で、祖国の踊りをジャズという新しい音楽に乗せて踊ったのかもしれない。興味深いのは彼らのダンスにヨーロッパのバレエを持ち込んで融合させたことである。おそらく当初のジャズダンスは音楽の即興性に合わせてダンスもまた即興性の高いものだったのではないか。そこへバレエのテクニックと同時に持ち込まれたのが再現性である。結果同じ踊りが何度でもできるようになった。ミュージカルなどのショービジネスではひとつの公演を何度も繰り返す必要がある。かくしてジャズダンスはバレエの優美さを備えただけでなく、型が出来上がったことでアメリカ全国に、そして世界へと広がって行ったのであろう。

 

カワイヒロコさんはエネルギーにあふれているひとである。
その溢れたエネルギーをマシンガンのように言葉にして吐き出すことができるひとである。そしてその言葉には毒もいっぱい含まれているんだけれども、根底には日本への心配と愛がある。

カワイさんは子どもの頃にはじめて演劇に出会って感激する。そして同時にこのひとたち毎日こんなことやってていいなあとも思う。演劇に感動しただけでなく、どこか冷めた視線を持っていたところが面白い。自分も毎日こんなことができたら楽しいだろうなあと思う。それで演劇を始める。バレエも習っていたが次第に演劇の楽しさに熱中していく。結局小学生から演劇をはじめて大学の演劇部まで演劇漬けの青春時代を過ごした。果ては俳優か舞台役者か。ところがそう向かわなかったところがカワイさんの面白いところである。なんとカワイさんはダンスのためにニューヨークに留学してしまったのである。あれ、演劇はどこへ?

 

バレエを続けていたから、踊ることもずっと好きだった。もちろん演劇も好きだったけれども、自分にしては演劇はどうもうまく行き過ぎた。小学生のときから舞台はいつも主役だった。主役ばっかり。どうやらわたしは演劇が上手いらしい。妬まないでちょうだい。だってしょうがないじゃない、主役をやってと役が回ってきてしまうんだもの。そんな具合で演劇をやってきて、どこかでもういいかなっていう気持ちが湧いてきた。それにカワイさんは人生二番手理論を信じている。それはこうだ。どんなことでも、一番上手なひとは案外あっさりそれを辞めてしまったりする。苦労を知らないせいだろうか。それに引き換え二番手以降のひとたちというのは努力を重ねて頑張ってきたというところがある。だから辞めない。続けるのだ。これがカワイさんの言う人生二番手理論である。それでいくと、カワイさんは演劇については一番手だった。それで、カワイさんは演劇を辞めた。やっぱりダンスよね。ダンス。それも、バレエの要素が入ったジャズダンス。しかも本場ニューヨークでやるわ。そうしてカワイさんはニューヨークへと旅立っていった。

 

アメリカでダンスを学び、そして舞台に立った。そして四年経った。このままアメリカに残るか。それとも日本へ帰国するか。アメリカを選んでいたら全然別の人生になっていたと思う。そうカワイさんは帰国した。日本へ戻ってダンススクールを開いた。そうしたら、ダンスを教えることが天職だと気がついた。わたしね、教えるの上手なの。自分が踊るのは上手くないけど。あははは。

 

カワイさんにはいろんな理論がある。或いは信条といってもいい。人生二番手理論に続いて、今が最高理論の登場だ。人生には様々な岐路がある。あのときこうしていたら。あのとき向こうを選んでいたら。あのとき……、あのとき……。こういう感情に囚われるときひとは大抵現状に不満を覚えて、ネガティブに陥っている。だからこそ過去の分岐点を思い出して今ココを選んだことを後悔し、決して行くことのできないパラレルワールドへと思いを馳せるのだ。しかし実際は記憶に残るような分岐点だけでなく、一分一秒の間にも無数の分岐点が存在し、それらをほとんど意識しないで選択し続けている結果が今であることをひとはあまり考えない。

 

カワイさんの今が最高理論は、振り返っても仕方がない過去を考えずに今だけを見る。そしてその今が最高の選択であると信じることである。こういうとカワイさんが実に前向きでプラス志向であるように見えるし、実際その通りではあるのだがそんなカワイさんだって悩んだり、落ち込んだりすることもある。だけど、結局最後にはそうした過去に対する思いを振り切るのだ。わたしにだってあのときアメリカに残ってたらなんて思うことはあるわよ。だけどね、今が最高だって考えなかったら人生つまらないじゃない。

 

ストレスフリーに生きる。これもまたカワイさんが大事にしている信条のひとつだ。現代社会において、もっとも辛いものの一つ、それはストレスを溜めることである。だれもがストレスから逃れられない世の中である。そんなストレスから開放されて生きることが果たして可能なのか。できることならストレスのない人生を歩みたい。それはだれもが感じるところである。

 

ダンスをしよう。
ストレスに負けないためにはまず第一に健康でなければいけない。そのためには運動である。例えばジョギングをしたことがあるひとなら知っている、あの走り終わったあとの爽快感は何ものにも代えがたい。普段運動をしないひとはどんな運動でもいいからこの爽快感を味わうべきである。ダンスはそのさらに上をいく。それはダンスは単純な運動に表現が加わるからだ。だからダンスを習いに来るひとは老若男女問わず自分の世界に没頭して踊る。余計なことは考えない。考える余地がない。例えばランニングでは、嫌な出来事を思い出しながらでも走ることができるが、ダンスはそれができない。だからダンスをしているひとはその間ストレスフリーになる。

 

二十四時間365日ストレスフリーというのは大抵のひとにとってまず無理である。だからこそストレスから無縁になれる時間が必要なのである。ダンスを学ぶことは、健康を維持することにも役立ち、いっときでもストレスから開放される。まさに一石二鳥である。カワイさんは、指導するだけでなく自らも踊り、ストレスフリーを実践している。

 

ダンスよりも教えたいことがある。
ダンススクールは成人も習いに来るが、やはり子どもが多い。カワイさんはダンスを教えるのが得意であるが、それ以上に教えたいことがある。それは教えるというより育てるに近いのかもしれない。ではそれはなにか。社会に出ても堂々としていられる人間になってほしい。これがカワイさんの願いである。ダンスが上手くなるにこしたことはない。しかしそれよりも大切なことは、ひととして正しく自分を持っていることである。引っ込み思案や謙遜や劣等感は生きていくうえでまったく役に立たない。もじもじしていたら誰かが手を引っ張ってくれるなんてことは絶対にない。自分から出ていく勇気。自己主張。高い自己肯定感。将来世の中へ出ていくために必要な力だ。ダンスを通じて身につけてほしい力だ。

 

だから私結構子どもたちに厳しいんですよ。でもね、そうやっていると子どもたちは自分たちで解決するようになってくるんです。私のみえないところでやってくるんです。そんなの知っちゃうと泣いちゃいますよね。そういってカワイさんは目を潤ませた。カワイさんは感激屋さんである。